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ドーナツ化する東京・大阪の商業地地価 消えゆくハマトラの思い出 「地価LOOKレポート」令和3年第3四半期分

朝倉 継道朝倉 継道

2021/11/26

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撮影/編集部

コロナ後6度目のレポートが公表

国土交通省の「地価LOOKレポート」(主要都市の高度利用地地価動向報告)令和3年第3四半期分(2021年7月1日~10月1日)が、この11月19日に公表されている。新型コロナウイルスの感染拡大による、いわゆるコロナ禍以降のものとしては今回が6度目のリリースとなる。いくつか注目される内容をピックアップしていきたい。

なお、地価LOOKレポートは、公示地価・路線価・基準地価のいわゆる3大公的地価調査に次ぐ第4の指標として、他の3者にはない年4度の頻繁な更新をもって我々に日本の土地の価値にかかわる方向性を指し示してくれるものだ。

特徴としては、地価の動向を示す9種類の矢印や、多用される表や地図により、内容がとても把握しやすい点が挙げられる。ただし、3大公的地価調査とは違い、土地の価格そのものが示されるわけではない。要は、地価のトレンドを調査し分析する内容の報告書だ。

全国100箇所の調査対象地区全てにつき、不動産鑑定士による具体的なコメントも添えられている。それぞれのエリアの実情を理解するうえで大きな助けとなるだろう。

商業系地区が「ドーナツ化」する東京圏・大阪圏

コロナの影響から早々に抜け出した感のある住宅系地区における地価。それに比べ商業系地区での回復は難航中と、そんな印象が強い目下のわが国の大都市部地価動向だが、今回の地価LOOKレポートでもその辺に変わりはない。まずは全国の数字を挙げてみよう。

このとおり、住宅系地区での下落0に対し、商業系地区での30という数字が際立つ格好だ。さらには、この30地区を詳しく見ていくと、内11地区を東京都区部に所在する地区が、同じく9地区を大阪市内の地区が占めている。要はこの30とは、東京と大阪の都心部が大きく押し上げている数字にほかならない。

これら東京都区部と大阪市内および、それを取り巻く周辺地区における各数字の合計を比べてみよう。

このとおり、東京都区部を囲む各地区においては、地価LOOKレポートの調査対象である商業地区は合計12地区あるが、そのうち下落地区は1地区しかない。対して、東京都区部は前述もしたとおり17地区中の11地区と対照的だ。

 

大阪市とその周辺でも、エリアの中心である大阪市内の商業地はいわば全滅であるのに対して、周りはそうした状況とはなっていない。すなわち、東京圏・大阪圏の商業系地区の地価については、現在そのトレンドが“ドーナツ化”している様子が見てとれるかたちとなっている。

次ページ ▶︎ | 名古屋の堅調ぶり

名古屋の堅調

先般9月21日に公表された令和3年都道府県地価調査による調査結果、いわゆる基準地価でも、コロナ禍モードからの「名古屋の復調」はトピックのひとつとなっていた。

これについては、コロナ禍によってインバウンド=訪日客需要が根こそぎ失われ、その影響が商業地地価へのダメージとして特に大きかった大阪や、それに次ぐ東京に比べて、名古屋ではその特徴が薄かったことを要因と見る分析が多い。

そこで、今回の地価LOOKレポートでの名古屋の様子も見てみよう。

さきほどの東京都区部では17地区中上昇地区が1地区に留まり、さらに大阪市内では9地区中0地区となっていたのと比べると、基準地価同様、名古屋の堅調ぶりがここでもよく表れている。

「ハマトラ」もすでに忘れられた言葉に?

ここ数年の地価LOOKレポートを眺めながら、首都圏のある地区の孤立した動きがいつも気になっている人、意外に多いかもしれない。神奈川県横浜市の元町地区だ。

かつては全国に鳴り響いた「ハマトラ」の語を生み出すなど、ヨコハマの象徴的なファッション&ブランドエリアだった元町だが、近年は衰退を囁かれることが多い。

コロナ禍以前の全国的な都市部地価上昇期にあっても、取り残されたように元気が無かったが、コロナを機にさらにその様子が深まった。

横浜市内および神奈川県内の他の商業地区(横浜駅西口・みなとみらい・川崎駅東口・武蔵小杉)の地価が目下4四半期連続の上昇を示しているのに対し、ひとり寂しく7期連続の下落となっている。

このことについて、一応目に見える理由としては、横浜市中心部における商業地活性化の重心が、近年大きく北西側(鉄道路線的には東京寄り)にシフトしたことが挙げられるだろう。

しかしながら、おそらくはそれだけにとどまらず、さらに複合的な要因が元町衰退の水面下には隠れている可能性が高いようにも思われる。

西では、街の規模には差があるものの元町とはいくつか似た要素をもつ神戸市・三宮駅前地区が同様の動きを示している。こちらは6期連続の下落だ。

これらは、日本の東西を代表する港湾都市の著名な商業エリアで起きている類似した現象として、興味深い考察の対象ともなるはずだ。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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